山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 針


 
子どもの寝てゐるかたはらで
 
その母はせつせと着物を縫つてゐる
 
一つの手が拍子をとつてゐるので
 
他の手はまるで尺取蟲のやうにもくもくと
 
指さきの針をすすめてゆく
                           じつ
目は目でまばたきもしないで凝とそれを見てゐる
 
音すら一つかたともせず
 
夜はふけてゆく
 
なんといふしづかなことだ
 
子どもの寝息もすやすやと
 
針は自然にすすんで行く
 
むしろ針は一すぢの絲を引いて走つてゐるやうだ