山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 秋ぐち
              ―
      TO K.TOYAMA


 
 さみしい妻子をひきつれて
 
 遥遥とともは此地を去る
 
 渡り鳥よりいちはやく
        ど こ
 そして何処へ一丁かうとするのか
                                か げ
 そのあしもとから曳くたよりない陰影
 
 そのかげを風に揺らすな
 
 秋ぐちのうみぎしに
 
 錨はあかく錆びてゐる
 
 みあげるやうな崖の上には桔梗や山百合がさいてゐる
           そら
 紺青色の天よりわたしの手は冷い
 

 
 友よ
 
 おん身のまづしさは酷すぎる
 
 而もおん身の落窪んだその日のおくに真実は汚れない
 いのち
 生を知れ
 
 友よ
 
 人間は此の大きな自然のなかで銘銘に苦んでゐるのだ
 
 しづかに行け