山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
  愛の力


 
 穀物に重い穂首をたれさせる愛のちからは大きい
 
 赤赤しい秋の日
 
 ひろびろとした穀物畠
 
 ひろびろと
 
 としよつた農夫はそれに見惚れ
 
 煙管の吸ひ穀をはたきながら
 
 いたづらな雀や鴉に何をかたつてゐるのか
                          きん
 ゆたかに実のつた穀物は金の穂首をひくくたれて
 
 だまつてそれを聞いてゐる
 
 穀物に重い穂首をたれさせる愛のちからは大きい
  あかがね
 黄銅のやうなその農夫のあたまの上に
 
 蜻蛉が一びき光つてゐる
 
 何といふ静かさであらう