山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 蛙


 
くるしみはうつくしい
 
人間の此の生きのくるしみ
 
これは人間ばかりでない
 
これが自然の探い大きな意志であるのか
 

 
深藍色にすつきりした空
 
秋の日のうすらさみしさ
 
あちらこちらの畦畦にみすぼらしい彼等をみよ
 
女達と子ども等と
                             いなご
その手をのがれて逃げまどふ蝗蟲を
 
ひつそりと貧しい村村
 
ながながしい鶏の声
 
田の面はひろびろと凪ぎ
 
蝗蟲がぴよんぴよん飛んでゐる
 
それをつかまへようとしてあらそひ
 
それを追つ駆けまはしてゐる彼等
 
しきりにぴよんぴよんと
 
弱弱しい昼過ぎの光線を乱してとんでゐる
 
そしてまんまと捕へられる蝗蟲よ