・緒言
オタクの社会適応状況をこのサイトであれこれと考えてみたりしている手前、私はオタク達のファッションにも幾らかの興味を持っている。あなたなら、“典型的なオタクの服装”と言われてどんなものを想像するだろうか?おそらく、多くの人が比較的似た姿を想像しているんじゃないかと思われる
(詳しくは、こちらなど如何でしょうか?→)し、実際に秋葉原に出掛ければその想像通りの姿をしたオタク達を沢山見かけることができる。
とはいえ、
オタク達の服装は何年たっても全く変化していないのだろうか?既に閉鎖されてしまった優良オタクサイト“COMME CA DU NERD MEN”は、その閉鎖の間際、
秋葉原のオタクのファッションにも変化の兆しがある事を指摘していた。そしてさらに四年の月日が流れ‥‥私自身もオタク達のファッション事情が変化してきているのではないかと感じ始めるようになってきた。このため今回、秋葉原のオタク達のファッションや髪型などを再度調査することを決定した。このテキストではその方法と調査の結果を報告し、若干の考察を付け加えたいと思う。
・目的
2004年現在の秋葉原のオタク達のファッションが1999年〜2000年頃と比較して変化しているのかを調査・比較する。また、他の観測地点
(銀座三越周辺・新宿駅東口交番前)と比較して、秋葉原のファッションの特徴について確認する。
・方法
2004年5/1(土)において、街を歩く20代〜30代男性の服装を観察する。観察地点と観察時間は次の四つを選択した。
1.銀座三越〜JR有楽町駅周辺における観察 (AM11:00〜PM1:00)
2.秋葉原電気街全域 (PM1:30〜PM3:00)
3.新宿駅東口交番前 (PM5:30〜PM6:30)
4.秋葉原電気街全域、少し遅い時間(PM3:00〜PM4:30)
観測方法は目視による観察を行わざるを得なかった。
※1各地点において偏執病的な目視を行ったうえで、どのような服飾の傾向が各観測点の男性にみられるのかを比較した。なお、参考として秋葉原において携帯電話による撮像を行った。
・結果
1.各観測点ごとの比較
まず、各地点ごとで20代〜30代の服飾を比較した。
当然だが、
最も服飾に注意が払われていたのは午後6時頃の新宿駅東口であった。この時間の新宿駅東口は、飲み会・会合・デートなどといった対外的な活動の集合地点に用いられることが多いため、そのような集まりに出席するような男性が、そのような集まりに相応な服装で集まる。このため、非常に時間とお金のかかった服装の男性が多かった。
おそらくは一万円以上のシャツ、アクセサリ、エロいジャケット、足の長さを強調するのに適したパンツ、などなどのオンパレードである。なんだか高そうな、ヨーロッパからの輸入モノっぽい非量産型や、コムデギャルソン級を着用している男性が非常に多かったのが印象的である。もちろんMEN'S BIGIやJUN MENなどで量産型として扱われている服装を着た男性も数多くみられたが、彼らとて決して不格好だったりナンセンスだったりすることは無かった。間違ってもオタクっぽくない。
着合わせにも注意が払われ、鮮やかなカラーを上手にとりこんだ服装が目を奪う。髪型も多くの男性がきっちりとヘアワックスなどでまとめており、
殆どの男性でカラーを入れた形跡がみられた。それも、ただ脱色しただけといった男性はあまり多くなく、美容院でカラーを入れたものとおぼしき丁寧な綺麗な色が多数を占めた。中には、「黒」を入れている男性も混じっており、
(田舎から出てきた私などから見ると)服飾に対する時間的・技術的・金銭的投資のアベレージが高いと感じられた。
また、場所が場所だけにカップル率は高く、男女複数が集まってこれから出掛けるといった雰囲気の男女も非常に多い。総じて、男女間のコミュニケーションに最も好適なファッション及び関連スキルを身につけた男性姿が最も多くみられたのが新宿駅東口PM6:00であった。
続いて、銀座のメインストリート及び各セレクトショップ・百貨店内についての観察結果を述べる。やはり銀座の街中では、オタクらしいファッションをしたオタクというものはみられない。流石に
夕方の新宿駅東口に比較すると「エロい服装」はみられず、落ち着いた服装の男性が多い。また、新宿駅に比較して20代の男性が少なく30代の男性・妻子持ちが多いことも特徴的だ。時間帯と場所柄ゆえに仕方の無いことなのだろうが、男女間のコミュニケーション
(特にデートや合コンで役に立ちそうな)をアピールするような服装は目立たない。とはいえ、
上品で控えめな落ち着いた服装の三十代前半の服装が多くみられた(特に外車で松屋などに乗り付けている妻子持ちなどは非常に落ち着いた服装をしていて、しかもそれが絵になっていた!)。元々高収入高文化的生活を実現している30代以上の男性が比較的多いエリアなのでこの傾向は当然かもしれない
※2が、落ち着いた服装だが隙の無いファッションの男性が非常に多い。新宿では何割かの割合でみられるような、ラフさをウリにした服装は殆どみられないのが特徴といえば特徴か。
銀座のファッションは夕方の新宿とは年齢層もお洒落の方向性も異なるものの、やはり服飾に対して時間的・技術的・金銭的な投資が積極的に行われている点では共通していると言えるだろう。
最後に、新宿・銀座を踏まえた上で秋葉原の20代〜30代の若者の服飾について述べてみよう。当然だが、秋葉原でみられる20代〜30代の男性が、
三地点のなかで最も「お金や手間のかかっていない服装」をしていた。もちろん髪型も、である。
秋葉原で今回目立った男性の服装は、西友・ジャスコ・ファッションセンターしまむら・ユニクロなどといった量販店で一着5000円以下で手に入れることが出来る服装が主流であった。近年の量販店の衣類のエセモード化
※3を受けて、それらの服装のなかには、一見すると丸井やパルコ内部のテナントで購入したのではないかと見まがうようなデザインのものも多くみられるのだが、
よくよく服装を見てみると、襟元の出来が悪かったり、胴回りや裾の長さまでには注意が向いていなかったり、デザインが二年ぐらい前にパルコでよく見られたものだったりすることに気づく。じっくりと比べれば一着7000円以上のシャツ等と比べるとどことなく違う印象を受ける筈だ。さらに、足まわりやアクセサリの質、バッグ、髪型や髪のカラーなどと合わせて評価すると、金銭的・技術的・時間的な投資が疎かになっている印象は決定的となる。
折角そこそこマシなシャツを着ていてもヨレヨレになっていたり糸のほつれがみられたり、メンテナンスも甘い。
少なくとも、新宿・銀座で多くみられた20代〜30代男性とは、明らかにファッション全体の質が異なっているのだ。パッと見てそれほど汚らしい格好でなくとも、現在の服飾事情を鑑みると
それらの服装は観察者にポジティブな効果を与えるうるものではなく、服装のヨレなども手伝ってむしろネガティブな印象を受けざるを得ない。なかには主張の激しい服装を選択しているオタクもいるものの、それらはオタクの服装でありがちな「勘違い似非ロック系」が殆どで、不似合いなアクセサリの使い方や年齢不相応なクロムハーツ等の使用者が多い
※4。
ついでながら、
(これは秋葉原を徘徊するどの服装のオタクについても言えることなのだが)、姿勢が悪い。新宿や銀座で見かけた男性達に比べて姿勢の悪い男性が多い!猫背の男性が異様に多いことが携帯画像からもご理解頂けるだろう。これもまた、外見に対してコストが支払われていないことを示す一所見と言えるだろう。
そして、
従来型のnerd fassionを身につけた男性がやはり過半数を越えているという事情は今回も動かし難いことを付け加えておく。ここまで述べてきた、「似非モード的」とでも呼ぶべき、最近の量販店で売っているような服を着ている若者達は、秋葉原の20代〜30代男性の中でもまだマシな服装をしている部類に属する。秋葉原を徘徊するオタク達のファッションのアベレージはまだまだ低い――少なくとも新宿や銀座で見かけた同年代の男性に比べると、大幅に見劣りする。その中核を占めているのは、今も昔も変わりなく、従来型のオタクファッションの男性である。彼らは幾分減っているが、まだ主流だ。
以前の秋葉原のように、似非モード系でも幾らか見栄えがするほどオタクファッションの寡占状態が続いている状態ではなくなったものの、まだまだ全体に占める従来型オタクファッションの割合は高い。
新宿や銀座との決定的な違いは、このような従来型のオタクファッションがみられるかみられないかというポイントにつきる。新宿や銀座でも、よくよく探せば地域量販店で買ってきたとおぼしき服や、そこまではいかなくてもOZOC/JUN MEN/COMME CA DU MODE MEN の服をヨレヨレになるまで使ったものを見かけることは幾らかある。また、服飾のミスマッチ・とにかく地味にまとめられた消極的ファッションというものもみることは出来る。しかし、浮浪者同然のオタクとか、ぼさぼさ頭に汚い綿パン・マジックテープの古びたスニーカーといったような、
典型的で女性から異端視されがちなnerd fassionは秋葉原でしかみられない(代々木、大須、大阪日本橋、池袋などのみるべき所ではもちろんみられるだろうが)。
後述するように、確かに秋葉原におけるオタク達の服飾には幾らかの改善傾向が統計的には認められよう。しかし、極端かつ典型的なオタクファッションのオタク達がまだまだ多数を占めている現状は変わらず、やはり秋葉原は外部の人間からみれば
「汚いオタク・不格好なオタクだらけの街」という印象は免れないだろうと推測される。また、髪に対する投資も少ない。「綺麗にカラーを入れて生みだしたブラック」は無論のこと、灰色や茶色で綺麗にまめにカラーを入れているオタクは殆どいないし、ヘアワックスなどの使用が認められない男性が目立つ。
そして殆どの男性が、全く髪を染めていなかったことは特筆に値するだろう。
やはり、今回対照として選択した新宿や銀座といった街の同年代男性達と比較すると、違いはやはり明らかすぎるほど明らかであり、2004年現在においても秋葉原が“冴えないオタクの群れる街”と呼称されても仕方ないとは言えるだろう。他の街の男性との格差は、狭まっていない。
3.秋葉原内部における、場所ごとの比較
さて、秋葉原と一言で言っても様々な種類の店舗が存在するわけで。それらの各ジャンルの店内に巣くう男性客のファッションや言動にどのような相違点があるのか観察してみたが、基本的には大きな違いはみられなかった。ソフマップ、石丸電気、あるいはメッセサンオー同人ソフト館、パーツショップ、どこを見ても比較的似たような服装の男性が沢山存在していた。
どの店でも一定の割合で思いっきりみすぼらしい姿のオタクが存在し、また同時にまずまずの見た目のオタクが存在していた。ただし、親子連れやカップルは流石にエロ同人ゲームショップや、ジャンク屋には殆どみられなかったし、逆に石丸電気やラオックスの家電館には古典的なnerd fassionのオタクはあまりみられなかった
(代わりに、親子連れやカップル、女性客が多くみられた)。一方、かの有名な
成人向け同人誌ショップ『とらのあな』はエレベーターでしか入れないせいか、はたまた置いてある商品の敷居があまりに高いせいか、ここには
ちゃんとオタクオタクした見た目の男性オタクしかいなかった※5。
とはいえ、幾つかの例外的箇所を除けば、それほど店のジャンルごとによるオタクファッションの違いというものはみられなかった。むしろ、前述した時間による変化のほうがハッキリと印象に残っている。
4.1999年頃と現在の比較(秋葉原において)
最後に、2004年現在の秋葉原と、1999年頃の秋葉原における男性客のファッションの相違について述べる。
結論から言えば、秋葉原における男性客のファッションのアベレージは明らかに向上している。もっと適切に言葉を選ぶなら、『旧来型のnerd fassion に比べると現代的な、似非モード的な格好の男性が増えている』、と表現すればいいだろうか。
特に20代前半の比較的太陽が高い時間帯に出没していた男性達の多くは、郊外量販店の服とおぼしきものが多数派とはいえ、典型的オタクファッションよりは遙かに見栄え(!?)のする格好をしていた。
これは1999年〜2000年頃には非常に稀だった現象である。4、5年前の秋葉原では、丸井やパルコ内のテナントで最も見栄えのしない店で揃えた服装でも十分に秋葉原の中では浮いている印象があったが、現在は違う。
同人誌やエロゲーを買いあさるオタク達といえども(若年者を中心に)幾らかマシな服装(いや、似非モードの割合が大きいだけか?)をしており、もっと時間と金のかかった服飾を実現しているオタクすら確かに増加している。さらに、ビジュアル系のオタクの中にも「勘違い系」だけではなく、ビジュアル系なりに統合性の高いファッションを実現している者が散見されるようになってきている。このため、理由はどうあれ、秋葉原を徘徊するオタク達の服装は5年前に比較して向上していると総括することはできそうだ。
→つづき(考察とまとめ)を読む →写真も見てみたいなぁ
【※5男性オタクしかいなかった。】
ちなみに、かつては秋葉原のとらのあなにも、女性向け同人誌コーナーがあったのだが撤退してしまったため、女性オタクが彷徨う女性向け同人誌売場を観察することができなかった。現在、とらのあなをはじめとした
女性向けホモ同人誌のメッカは池袋である。今後、女性オタクのファッションを観察するならば池袋に遠征する必要があるだろう。(
→観察しました)
余談だが、
秋葉原から姿を消したショップとしては、「抱き枕・等身大バスタオル販売店」も挙げられる。以前存在した店はとうに潰れており、 あちこちのオタク達にどこに行けば売っているのか質問してまわったが彼らの返答も「もうなくなったよ」というものだった。濃いマニアやファンの為に、かつてはそれなりにそういうものを取り扱っている店も多かったのだが、今回はついぞお目にかかることができなかった。もう、商売用の商品として成立しないということだろうか?それとも、ギャルゲー界にそういうグッズに相応な大ヒット作が出ないせいだろうか?通販の台頭?
いずれにせよ、このこともまた男性向けのギャルゲー・エロゲー・アニメ業界の元気のなさを反映したもののような気がする。そういえばフィギュア屋も随分と数を減らしたものだ。
思えば2000年頃は、エヴァ・カノン・Air・リーフ系ゲーム・ナデシコ・ウテナなどなどの商品がまだまだ元気だった。ナデシコやウテナ・君が望む永遠クラスのヒットすらここ近年は供給されていないという事実を鑑みると、ギャルゲー・それっぽいアニメ系の業界が死に体になっているのはむしろ当然のように思えてならない。まともなヒット作が生まれないか、生み出せないのだから。
(2006年注:同人界はそうでもないが、果たして今後はどうなるか?)