シロクマ注:
これは…かなり王道なんじゃないでしょうか?Fさんのオタク趣味への開眼は比較的遅く、思春期適応がオタク趣味によって遷延したとか、オタク趣味によって葛藤が補償されていたとはあまり考えられません。それにしてもこの経過は、思春期ヒエラルキーにおいて不利を被り、異性と交際出来ず劣等感を抱えた男子像としては絵に描いたような典型例と言えるでしょう。これまでの
症例検討でもみられたように、
中流家庭・小学校の時の優等生・運動が苦手・“空気が読めない”子は、いじめられたり虐げられたりするリスクを負っています。このような境遇に甘んじ続けることによって、思春期男性は劣等感をしっかりと刻印されてしまう傾向が強く、Fさんも例外ではありませんでした。『伊集院光のオールナイトニッポン』への傾倒っぷりも、彼の心理的状況を類推させるに十分です。
高校時代もまた、思春期ヒエラルキー低位で“勉強だけが取り得”な男子の、ある種王道パターンを進んでいるようにみえます。生徒会への編入と活動、そして生徒会内における片思い。高校内でいじめられないとて、一般的な優越感ゲーム
(容姿、女子も好む趣味、スポーツ、お喋りetc)に参入困難な男子は、オタクサークルや生徒会など、校内において日陰的存在のコミュニティのなかで活動せざるを得ませんし、それこそが彼らの心的適応を救うわけですが、Fさんも例外では無かったと推測されます。
Fさんの恋愛が生徒会絡みのものだったのも、自然な流れと言えるでしょう。しかし、
彼がそこで到達したのは恋愛成就ではなく、セーラームーンのエロ同人誌でした。告白の形式が人づてであった事にも注目しなければなりません。この形式は、男性自身の劣等感を防備するには優れてはいるものの、女性に自分自身の真剣さを伝えるにはあまり向いていません。「本気じゃない」と思われるリスクも高いですし、考えようによっては失礼ですらあります。ですが、当時のFさんはそういう
“対象女性側の“都合”や気持ち”を汲み取る余裕が無かったのでしょう(おそらく、自分が相手に受け入れられるかどうかといった、自分の都合には意識が集中していたとは推測出来るのですが)。これでは、異性と付き合うことは出来ません。少なくとも、世の中にはもっと勇気があって、もっと女の子側の都合に即することが出来る相手が沢山います。まして、服飾などの整備も疎かにしているFさんの“誤解されやすい告白形式”を女性側がどう受け取ったのか…当時のFさんの適応状況を想像させるエピソードです。
シロクマ注:
これは…
(絶句)。
高校時代の情報から察するに、予備校のFさんは“女性からみて交際し甲斐があるかどうかという観点からみた、恋愛市場価格”はそれほど高くない、否、低いものだったと推測せざるを得ません。にも関わらず素早く懐に接近してくる異性!今なら2chなどの普及によって“
壺の危険”
(→ここの壺も参照)は察知しやすくなりましたが、十年前は今よりは気付きにくかったことでしょう。詐欺とは、心の隙間やセキュリティホールを突いてくるものです。件の女性もまた、Fさんの隙間を的確に把握したうえで、セキュリティホールにつけ込もうとしたわけでしょう
(性的関係に至らなかったあたり、彼女はしっかりしていると思います)。この件に関する当時のFさんの行動に突っ込みを入れるとしたら、
・幾らセキュリティホールを突かれたとはいえ、遠方からの不自然な誘いに疑問符を付けなかった点(或いは、女性側が自分を誘う事にどのようなインセンティブを有しているのかを把握しきれなかった点)
・宗教に勧誘してきた時点で全力撤退しなかった点
・“彼女”が新興宗教団体に属しているという異常事態を、誰にも相談しなかった点
が挙げられます。これらのどれか一つでもクリア出来ていれば、Fさんがここまで傷を広げる事は無かったかもしれません。ですが、当時のFさんの総合的な適応の在り方は、それを許さない程度には脆弱でした、という事でしょう。そして
もし、彼女と選んだシャツを本当に今でも愛用しているとしたら…まだ目が醒めてないのかもしれません。醒めない方がよいのか、醒めたほうが良いのか…。もし、あくまで脱オタ
(=社会適応の向上への試み)に拘るのなら、答えははっきりしていると私は考えます。
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