「視覚障害者のひとたちと美術鑑賞することの楽しさや意義は、実際やってみないと決してわからない」というのがはじめて視覚障害者のひとたちと美術鑑賞をして、一番強く感じたことです。
2001年11月に京都でおこなわれた「ひと・アート・まち エイブルアート近畿2001」の運営委員をしていた私は、運営委員仲間のひとりから今回の出展作品をぜひ視覚障害者のひとたちにも鑑賞してもらいたいから、どうしたらいいか一緒に考えて企画して欲しいと声をかけられました。
はじめてその話を聞いたとき、美術とは視覚的に楽しむものだとばかり思っていた私にはまるで雲をつかむような話に聞こえました。
しかし、実際に美術に関心をもつ視覚障害者のひとたちがいて、一緒に鑑賞をしているグループが東京や名古屋にもあり、ある視覚障害者のひとが「作品の前に立ち、ガイドから説明を聞いたり、対話したりするライブ感がたまらない。」と言っていたという話がとても印象に残りました。自分の想像を越えた人間の感性というものがあるのかもしれないと思いこの企画にチャレンジすることにしました。
また、「ひと・アート・まち」の出展作家のひとりであった全盲のアーティスト光島貴之さんもこの企画の仲間に入られ、これまで光島さん自身が孤軍奮闘していろんな美術館にかけあって美術鑑賞をされてきた体験談などもお聞きしさらに背中を押されたような気がしました。
ただ、実際にはなにもかもはじめてのことばかりで参加者集め、ガイド集め、企画内容、段取り、鑑賞の仕方の研究などどれもこれもが不安なことだらけでした。
パイオニアであるジュリア・カセムさんの著作「光の中へ」を読んだり、東京のグループのホームページを参考にしたり、経験者のアドバイスを求めたり、美術に関心のある視覚障害者のひとにも相談しながら自分なりにイメージを作り上げていきました。
参加者やガイドがどれだけ集まってくれるのかもまったく当てはありませんでしたが、とにかく視覚障害者のための情報媒体を利用して広く声をかけたところ13人もの応募者がありその反響の大きさに驚きました。反面、ガイドを集めるのに苦労をしました。
また事前準備として平面作品は、言葉による説明やそこから発展する対話による鑑賞が主になりますが、それを補助するものとして、触覚でも見てもらえるように作品の点図や立体コピーなども数点用意しました。
当日はあいにくの雨にも関わらず、ひとりの欠席者もなく参加してくださり、ガイドと資格障害者のひとがペアになり鑑賞をスタートできたときは本当にほっとしました。
鑑賞会の前半は光島貴之さんの触覚絵画のギャラリートークと鑑賞でしたが、触覚絵画に吸いつけられるように触れ、ガイドにいろいろと質問されている姿が今でも鮮やかに浮かんできます。時間が足りず作品のそばを早々に離れなければいけないのがとても残念そうでした。
そのあと、いろんな作家たちの作品は分散されていくつかの会場で展示されていましたので、グループにわかれて各会場へと向かいました。
私のグループは視覚障害者2人とガイド4人でとにかく最初は緊張してしまいましたが、立体コピーに触れてもらったところ夢中になって指でなぞり、的確に構図をつかまれたのには驚きました。
また、説明した絵はかなり抽象化された具象画だったので、それぞれのガイドの解釈が異なり、いいかげんなガイドだと思われないかと心配しましたが、その違いこそが面白いと言ってくださったことにより、自分の感性に素直になるという芸術鑑賞の本質を教えられたようで一気に緊張感が取れました。
また、視覚障害者のひとがうまくリードしてくださり、説明が難しいなと二の足を踏んでいた抽象絵画の鑑賞も楽しく鑑賞できました。ガイドそれぞれが抽象画を見てどんなストーリー描けるか、どんな音楽が聞こえてきそうか、その抽象画が何に見えるか、どんな感情を呼び起こすかなどを話し、まるでゲームのように盛り上がりました。
偶然そこに居合わせた知らない人までもが興味を示し参加されました。 そんな展開になるとは夢にも思っていなかったので、心がどんどん解放されていくようで絵のなかの世界に自由に入り込んでいけそうな気がし自分でも驚きました。
ガイドをしたひとは、それぞれ新しい美術鑑賞の楽しさ、面白さを発見できたと思います。
私はガイドをする前は、私たちの言葉が頼りで、鑑賞される視覚障害者の人たちに対して、客観的にまた主観的にもいきいきとしたことばで表現することのむずかしさばかりに気をとられていました。
けれど、いちばん大切なのはガイドするひとされるひとのお互いの気持ちなんだということがわかりました。お互いに必死になってなんとか伝え合おうとしたら、絵に描かれている表面的なもの以上のものが見えてくるから不思議でした。
はじめての鑑賞会では、うまくいったことだけでなく、うまくいかなかったこともたくさんありましたが、私たちが知らなかった芸術とのより本質的な関わり方を知ることができ、これからも試行錯誤を繰り返しながらこのような活動を続けていきたいという気持ちをもつことができ、そのような思いを、そのときの参加者みんなで共有することができました。
これまでの鑑賞ツアー第一回を参考にしてください。 |
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