5月26日、ミュージアム・アクセス・ビューの第3回目の企画で、京都府大山崎町にある大山崎山荘美術館に行きました。6月2日まで開催中の「ひとのかたち〜ピカソ、モディリアーニ、ジャコメッティから現代の作家まで〜」展を見るためです。
見えない人たち 7、8人と、それにガイドの人たちを加えて計 20人余りが参加し、3回目ということもあってか、互いに打ち解けた楽しい雰囲気でした。
はじめに学芸員の方が大山崎山荘美術館の歴史や建物について説明してくださいました。中国の後漢時代の墓に使われた画像石をそのまま利用した大きな暖炉、柱や手摺りなどに施された渦巻き形を基調としたような様々な飾り模様、とくに螺旋にねじったようなスピンドル形の棒は触り心地がとても好かったです。
庭の池の表面を覆うほどのたくさんの蓮の葉に触れたのも良かったです。大きいのは直径30cm近くもあって、それが水の表面にぴたりと重なるように水平に広がっていて、しかも指でちょっとくらい力を加えてもびくともしないのには、もちろん浮力もあるのでしょうが、葉自体の形を保つ力、細い茎が大きな葉を支える力といったものを想像しました。
また、モネの有名な「睡蓮」も展示されていたのですが、その絵についてのガイドの方の説明を聞きながら、私はあの池の表面を覆っている蓮をイメージすることができました。
その後新館に行って、ようやく「人のかたち」展です。ところが、彫刻も数点あったのですが、実際に触れるものは1点もなくて、やはり残念でした。もちろん、触ることができなくても、ガイドの方が丁寧にいろいろと説明してくださり、見えない人の中にもその説明でかなりよくイメージでき、ガイドの方といろいろ対話できている人もいます。でも、視覚経験のほとんどない私にはとくに絵の理解は難しいです。
絵はたんなる形だけでなく、グラデーションとか陰とか対比とかいろいろな視覚的な効果を意図した手法が組合されていて、私の理解を超えています。 一部の作品(ミロの「窓辺の人物」やモディリアーニの「少女の肖像」など)については簡単な点図を用意してくださり、これは私にはとても参考になりました。でも、形中心の点図では表現しようのない絵も多いようです。
さて、今回初めて妻もこのツアーに参加させていただきました。見えるのでいちおうガイドの役をしていたようです。
彼女は絵など美術にもかなり興味を持っていて、しばしば展覧会にも出かけたりしています。
後で知ったことですが、今回彼女がこの企画に参加したのにはそれなりのもくろみもあったようです。それは、たぶん見えない人たちをふくんだ企画だからきっと作品にも触われるだろうと期待し、とくにジャコメッティの作品にまた触れてみたいと思っていたようです。なんと彼女は以前に京都のどこかの美術館でジャコメッティについそっと触れたことがあると言うのです。驚きですねえ!
しかし、その期待も今回は水の泡と消え、彼女もちょっと残念がっていました。でももちろん、私以外の見えない人たちと接しいろいろお話できたのはとても好かったようですし、またふだんは気にしないで通り過ぎてしまうような作品についても、見えない人に言葉で説明することを通して、新しい発見のようなものがあった、と言っていました。
私も、見える人たちも好きな作品にはごく自然につい触りたくなるのではないか、そういう人たちもいるのだなあと思い、ちょっと心強く思いました。 美術館の側も、見える人たちのこのような期待にも応えて、触ることもひとつの鑑賞の仕方だとしていろいろ工夫・企画してほしいものです。
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