第12回鑑賞ツアー
エイブルアート近畿2006──ひと・アート・まち・滋賀
アートリンクプロジェクト感想



2006年2月11日 アートリンクプロジェクト鑑賞ツアーに参加して
宮本忠

 僕は目の良かったときから、人という動物はコミュニケーションが大事であり、特に言葉が 重要であると考えてきました。目が悪くなって一層言葉の持つ意義を感じています。
 アクセスビューの皆さんの、美術を言葉で案内するという観点が、先ずもって僕を元気付けて います。障害も一つの個性とする立場からすれば、アートの創作を障害者とともに複数の者で 創る作品は個性のぶつかりあいから生まれる美の結晶でしょう。

 白井翔さんとアマカワユイさんの湖と星の世界も、また冨士川義晃さんと高橋夏樹 さんの粘土造形も目や精神に際立った個性を持つ若い男性創作者と新進女性創作者の すばらしいコラボレーションでした。作品には激しい、真剣な衝突と創造があったと 僕は感じ入りました。
 案内される私の希望を言わせていただくならば、目の悪い僕の場合、何をするにも 行動するときの位置関係の確定が非常に難しいのです。思いつきですが、絵を説明し ていただく場合、食卓を案内するときのように時計をイメージして説明していただく と一層わかりやすく楽しい共同鑑賞ができるのではないかと帰りの車中でかんがえて いました。


むかひらまゆみ

今回のツアーでは、ビューのメンバーの田中さんと私、アートリンク・プロジェクトの出展者である 白井君の3人が組になって鑑賞しました。
白井君は、進学する大学が決定したばかり。でも高校の期末テスト真っ最中なのに、勉強を放り出して の参加なのだそうです。
今まで行われたビューのワークショップの常連さんで、いつも与えられた用紙をはみ出すようなダイナミックな絵を描いてきた白井君、今回はアマカワユイさんというアーティストとの共同制作で、彼の個性が、どのように表現されているのか、私は興味津々でした。

まず最初に、白井君の作品が展示されている”大津祭曳山展示館”へ。
白井君は、やんちゃな小学生のように好奇心いっぱい! 何にでも触りたい、吸収したいという気持ちが漲っていて、そばにいる私たちにも、ぐんぐん伝わってきます。他の方の作品を鑑賞する間も、無意識に伸びる白井君の手・・・その「知りたいエネルギー」に圧倒されて、本当はあまり触っちゃいけないんだと分かっていても、ついつい、その手を作品へと導いてしまいます。
そして次から次へと飛び出し続ける質問に、言葉を探す暇もないくらいで、私の頭はフル回転、いや、空回りかな?

さて、当の白井君の作品を鑑賞していた他のグループから、「白井君、アーティストトーク、お願いします」という声が掛かりました。
「恥ずかし気+得意気」な様子の白井君は、アマカワさんとの共同制作の過程を話してくれました。
片やものすごく細かな細密画的作品を描くアマカワさん、片や心の赴くままに「大きいことはイイことだ!」という作品にチャレンジし続けてきた白井君。
この二人の個性が歩み寄り、リンクして出来上がった作品は、まさしくアート!
今までの白井君からは想像もつかないような小さなキャンバス、でもそれだからこそ、どの一つを取っても、白井君の凝縮されたパワーと心がイッパイに詰まっているようでした。
溢れ出るような白井君のパワーをアマカワさんが受け留め、昇華させ、今まで私たちが触れることの出来なかった白井君の内面さえ引き出した結果なのでしょうか。
滋賀県での展示ということで、白井君のテーマは湖。色も白井君がとってもこだわりを持って決めたんだそうです。
そして、それぞれの絵につけられたタイトル・・・「風の色」「かつての夕日」「辿り着いた湖」などなど、ため息の出るようなロマンティックな表現。彼の秘められた部分には、詩人も住んでいたんですね。

詩人と言えば、その後訪ねた”実験空間with Yuki”でも、白井君の詩人の心に触れる思いをしました。
そこは、昔からの純和風な造りの家。その座敷に、他の方のアートリンクの作品が展示されていました。
一見、ゴツゴツした古木の幹のようにも見える作品で、様々な形をしたものが10点くらいありました。
作者さんの許可を頂いて、その一つ一つを、興味深げに触る白井君。
平井君の妖精 とある作品を触った時、「これ、妖精みたい」と。
私たちは思わず、「え〜っ! 妖精って、こんな形???」
少なくとも私の妖精のイメージって、可憐で神秘的な美しさ、背中に半透明の小さな翼をつけて、ひらひら飛んでいる・・・。
でも、その作品は、50センチくらいの高さで、ゴツゴツデコボコ、太目の幹と細めの幹が上から下へと枝分かれしているような作品なんです。どちらかと言えばグロテスクなイメージ。
「小さい頃、夜に、よく来た妖精に似てる」と白井君。
「それは、夢の中?」と、バカな質問をする私。
「夢かも知れないけど、その妖精に似てる」と白井君。
その表情にも言葉の響きにも、照れも気負いもなく、単なる事実、白井君にとっては当然の事実を言ってるだけという感じでした。
その時、私は恥ずかしくなりました。私が妖精を知ってると思ってるのは、私が絵本の中で見た妖精。それは人から与えられた妖精のイメージでしかないんです。それを、皆が同じイメージを持って当たり前と思い込んでいた私。傲慢かつ貧弱極まりない感性です。
それに比べて白井君は、なんと自由なイメージの世界に住んでいるんでしょう。 (帰ってから調べると、妖精の本場アイルランドには、不気味なのや醜悪なのや、色んな妖精がいるとのこと。白井君の勝ち〜!)

さて、すごくラッキーなことに、この”with Yuki”で、コーヒーと焼き立てホカホカのチーズケーキをご馳走になりながら感想を話し合いました。
おいしかった〜!(食べ物の印象は強い!)
その後、大津駅に着いてホームに上がってから、「お腹減った」と白井君。
改札に入るまでなら、売店もあったのにぃ。自販機のスープで、何とか空腹をごまかしてもらいました。そう、彼は「お腹減らし」の食べ盛りな男の子でもありました。
制作者としても鑑賞者としても、色んな面を見せてくれた白井君。
教えられること、感じさせられることが盛りだくさんな1日でした。
私も、小さい頃、私に会いに来てくれた妖精を思い出してみなくちゃ。
白井君、どうもありがとう!

アートリンク鑑賞ツアー活動報告を参考にしてください。

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