第32回鑑賞ツアー
すべての僕が沸騰するー「村山知義の宇宙」展
 


参加者の感想
── 小澤亜梨子 ──

 今回、私の記憶に強く残ったことは、実は展覧会の内容そのものよりも、私たちの グループの中で熱く交わされた議論や、光島貴之さんが余談で話されていた、 村山知義さんとギャラリーTOMとの繋がりについてのお話でした。

 私が前回、この言葉での鑑賞に参加したのは数年前なのですが、そのときは 多数の作家の絵が集合している展覧会ということもあって、“焦点”は目の前にある 絵一枚に向けられていたように記憶しています。どんな絵なのかを言葉で描いたり、 時には絵の持っている雰囲気を手触り(実際には触りませんが、)や視覚以外の 五感に置き換えて伝えようと試みたり。見えない方の質問を受けて、私たちが 無意識の内に見落としていた見方を発見し、思わず「なるほど!」と何度も声を出して 感動した覚えがあります。
 絵の持つストーリーを読むような鑑賞であった前回に対し、その焦点が今回、 「そもそも美術館で村山知義の展覧会をする必要は本当にあるのか?」という、 それぞれの芸術観や、美術館という場所の捉え方を再確認するような、私にとっては とても挑戦的な問題に向けられました。
 これは、私が一人で、あるいはよく一緒に展覧会に行く友達と訪れていたとしたら、 たどり着かなかった考え方だと思います。真摯に、敢えて挑戦することに意義があると そのとき直感しました。

 鑑賞前にお話を聞かせてくださった学芸員の方の「村山知義は日本のダ·ヴィンチと 言っても過言ではない存在」という言葉と、展覧会の内容とがどうにも釣り合わないと 思うという意見がグループ内で出され、「過去の評価を確認するなら美術館ではなく、 その作家・作品が息づいていた“時代”を取り上げるなら、博物館での展示が 相応しいんじゃないか」という意見が出ました。
 時代を取り上げていると強く感じたことには理由があり、学芸員の方の話によると、 現存する村山知義さんの作品は非常に少ないそうです。同時代の作家の作品や、 村山知義さんが影響を受けた作品も補完的に数多く展示されていました。しかし、 村山知義さんの作家としての人物像は、分かりにくかったかもしれません。

 村山知義さんの表現域は絵画や絵本に留まらず、身体表現やパフォーマンスアート、 建築や舞台美術、広告など、芸術・アートからデザインまで、時代において多彩で 強烈な存在感を放っていたと思われます。
 確かに、村山知義さんはその時代の色を決める原料のような存在だと感じ、 「日本のダ·ヴィンチ」と表現される由縁だと思いました。

 「博物館での展示が相応しいのではないか」ということについて。これは私の考え方 なのですが、私は展覧会そのものもひとつの“作品”なのではないか、と考えています。 学芸員の方が「現存する作品が少ないことから、村山知義の展覧会は不可能だと 思われていた」と仰っていたことが印象に残っているのですが、私は、学芸員の 方々にとって、この展覧会そのものが挑戦であり、その結晶であることを強く感じて、 敬意の念を抱いていました。
 確かに、見方によっては博物館との境界は曖昧だと思います。それは、この展覧会に限らず、 作品は何かしらの時代の風を孕んでいるものだと考えると、美術館には時代を感じる・ 知るという博物館的な要素も併せ持っているのだと思います。
 けれど、受け手が作品を心で感じ、対話することを鑑賞とすると、私にはどうにも 「博物館」という言葉とそれとは、結びつかなかったのですが、この抽象的な感じ方を 伝えることは困難でした。
 ただ見方を限定するのではなく、視点を変えて考えることは、自分の考えを 整理するためにも、また新たな考え方を得るためにも、必要なことだということは 心に刻もうと思いました。

 今回一番興味深く、印象に強く残っていることは、村山知義さんの息子・村山亜土さんが “触れられるアート”ということで有名な、ギャラリーTOMの創始者であるということでした。
 村山亜土さんの息子さんの錬君は(若くして亡くなってしまったのだそうですが、) 視覚障がいを持っていました。
「ぼくたち盲人もロダンをみる権利がある」
錬君のその言葉に突き動かされ、視覚障がい者の触れられる美術館の設立に至った――。 ボーダーラインなく、色んな表現に挑戦していた村山知義さんの野心のようなものを、 このエピソードから感じ、正直に言うと、この話を聞いたときにこの日一番、 村山知義さんを身近に感じたような気がしました。
 私の個人的な予定なのですが、今年の夏に東京へ行った際には、縁に導かれるままに、 ギャラリーTOMへ足を運ぼうと思っています。

 より、伝えるための言葉を磨きたい、前回そして今回も、そう強く思いました。 これからも挑戦を重ねていきたいです。

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