アスランの心はきっと深く果てしない。

分かるのは
自分には理解できないということだけ。





「甘いな。」

そう声がしたと思ったら、キラの意識は途切れていた。
そのまま暗い闇を漂って、次に目覚めたとき見たのは白い天井。

「お目覚めか?」

そして、意地悪く笑う、アスラン。


―――負けたのか、僕は。


「最悪。」

吐き捨てるように言うとアスランは苦笑した。
差し出されたアスランの手を借りて、ベットの上に体を起こす。

「開口一番、ずいぶんなお言葉で。」
「思ったことをそのまま口に出しただけだよ。」

白兵戦で負けたのがよほど悔しかったのか
キラは拗ねたようにそう言った。
対照的に、勝者の余裕、とでも言うのだろうか。
アスランは気を悪くした様子もなく、ただ口元に小さく笑みを浮かべている。

「なぜお前があんなところにいた?」

問われるだろう事は予想していた言葉。
けれど答えを返すことはできずに、キラは黙ってうつむいた。

「いえないのか。…なら質問を変える。なぜ追われていた?」

「………………。」

またも、キラは口を噤んだ。

「これも言えないのか?」

キラは人形のように押し黙って、一言も言葉を発さない。

「キラ……。黙っていてもわからないだろう。」
アスランが優しく問いかける。
けれど、キラはただ首を横に振るばかりで何も言おうとはしない。

「……そんなに俺が信用ならないか。」
声のトーンが下がった。
いつまでも答えないキラにアスランの苛立ちは増し、とうとうその顔から表情が消える。
キラはそれを淡々とした気分で眺めていた。

そうして、やっと出た言葉は。

「アスランから言えよ。」
「キラ。聞いているのは俺だ。」
「自分は言わないくせに、僕には全て残らず話せ―――って、そういうこと?」
「あぁ。そうだ。俺に隠し事なんて許さない。」
「………ッ!」
切り返されてキラは言葉を失った。
その時のアスランの表情はあまりに冷たく、俄かにキラは動揺した。
けれど、次の瞬間にはそれは消え、いつもの温かな面差しが戻る。
昔はなかったそんな表情の変化に違和感を覚えたが、キラにはこの表情の正体はわからなかった。
……わからないまま、それでも負けてはいけないと敢えて強気な言葉を返す。

「それって自分勝手じゃない?」

アスランはしきりにキラの事を聞きたがるくせに、自分に対しての問いには答えようともしない。
それをキラが指摘した瞬間、アスランは、なにか大きな痛みに耐えるような、傷付いた色をその表情に浮かべた。

「そうかも……しれないな。」

酷く不安定なアスラン。
眉を寄せたアスランは、涙を流していなくても、泣いているようだった。





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