シンメトリーの少年
「裏切り者はお前じゃない。」 アスランは苦々しい表情でそう言い捨てた。 「……? どういう意味?」 「そのうち分かるさ。」 「―――“今”知りたいんだけど?」 キラの声のトーンが下がった。 アスランから距離をとり、もう前のような誤魔化しは聞かないとその瞳が語っていた。 アスランは微かに目を見開いたが、やがて諦めたように溜め息をついた。 キラが一度言い出したら何を言っても聞かないことは、アスラン自身が一番よく知っている。 「……黙秘権。という訳にはいかないんだろうな。」 アスランは肩をすくめた。 キラは口元だけの笑みで、もちろんと答え、アスランの次の言葉を待った。 「俺だってお前と同じだよ。ザフトから抜けた。俺はもう、お前とは戦わない。」 「は? アス…なに……言って………?」 「あぁ、もう! 何回も言わせるな。だから俺は軍を―――」 「いや、そうじゃなくて………なんで……?」 今、僕がそっちへ行こうとしてたっていうのに。 君までこっちに向かってくるなんて。 「ばかみたいだ。」 「まったくな。」 アスランは憮然とした表情で答えた。 「君までこっちに来ちゃったら、行き場所なくなっちゃうじゃないか。」 困ったような笑みでキラが言うと、アスランは表情を苦くした。 「不満なのか?」 「そうじゃなくて。っていうか、大体、どうしてそこまでするの? 君は、プラントでだって、ある程度の地位がある人なのに。全て捨てて、 僕のもとにきたっていうの?」 「そうだよ。」 「うそだ。信じない。」 「キラ?」 「ここまでする理由を聞かなきゃ信じない。」 「―――それほどお前が大切だと言ったら?」 「僕にそれほどの価値はないよ。」 「相変わらず、自惚れが足りないよ、お前は。」 「はぁ?」 「お前と戦うのはもう嫌だったんだ。」 「それは聞いた。―――他にもっと何かあるんだろう?」 「ないよ。」 アスランは、キッパリと言った。 「まさか、本当にそれだけのために?」 「あぁ。」 「馬鹿じゃないの?」 鼻で笑うような言葉に怒ることもなく、アスランは静かに肯定した。 「自分でも思うよ。でも、お前が俺の隣にいないなんて考えられない。」 「…………そうだね。」 地球軍を裏切った自分と、ザフトを抜け出したアスラン。 行き場所をなくして、今度は二人きり。 戦いたくないと嘆いた自分達に、今の状況は酷くお似合いだと思った。 戻れる場所は、もうない。 けれど。不思議と、不安はなかった。 別々の方向へ歩き出した背中は、それでも近づいていたということか。 振り返らなかったから気付かなかっただけで、案外二人、近い場所に居たのかもしれない。 |