伊東静雄「反響」
小さな手帖から


    雲雀

      にち
 二三日美しい晴天がつづいた
 
 ひとしきり笑ひ聲やさざめきが
 
 麥畑の方からつたはつた
 
 誇らしい収穫の時はをはつた
 
 いま耕地はすつかり空しくなつて
 
 ただ切株の列にかがんで
 
 いかにも飢ゑた體つきの少年が一人
 
 落ち穂を拾つてうごいてゐる
 

 
 と急に鋭く鳴きしきつて
 
 あわただしい一つの鳥影が
 
 切株と少年を掠める 二度 三度
 
 あつ雲雀――少年はしばらく
 
 その行方を見つめると
 
 首にかけた袋をそつとあけて
 
 中をのぞいてゐる
 

 
 私も近づいていつて
 
 袋の底にきつと僅かな麥とともにある
 
 雲雀の卵を――あゝあの天上の鳥が
 
 あはれにも最も地上の危險に近く
 
 巣に守つてゐたものを
 
 手のひらにのせてみたいと思ふ
              のち
 そして夏から後その鳥は
 
 どこにゐるのだらうねと
 
 少年と一緒にいろいろ雲雀のことを
 
 話してみたく思ふ




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