伊東静雄「反響」
小さな手帖から


    夕映

 
 わが窓にとどく夕映は
 
 村の十字路とそのほとりの
            ほこら
 小さい石の祠の上に一際かがやく
 
 そしてこのひとときを其處にむれる
 
 幼い者らと
 
 白いどくだみの花が
 
 明るいひかりの中にある
 
 首のとれたあの石像と殆ど同じ背丈の子らの群
 
 けふもかれらの或る者は
 
 地藏の足許に野の花をならべ
 
 或る者は形ばかりに刻まれたその肩や手を
            こす
 つついたり擦つたりして遊んでゐるのだ
 
 めいめいの家族の目から放たれて
 
 あそこに行はれる日日のかはいい祝祭
 
 そしてわたしもまた
  ゆふごと       くわつけい
 夕毎にやつと活計からのがれて
 
 この窓べに文字をつづる
 
 ねがはくはこのわが行ひも
 
 あゝせめてはあのやうな小さい祝祭であれよ
 
 假令それが痛みからのものであつても
 
 また悔いと實りのない憧れからの
 
 たつたひとりのものであつたにしても




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