伊東静雄「反響」
わが家はいよいよ小さし


    疾 驅


 
 われ見てありぬ
        あした
 四月の晨
 
 とある農家の
 うまやぐち
 厩口より
 
 曳出さるる
 
 三歳駒を
 

 
 馬のにほひの
  の ど
 咽喉をくすぐり
 
 愛撫求むる
      あしぶみ
 繁き足蹈
 
 くうを打つ尾の
 
 みだれ美し
 

 
 若者は早
 
 鞍置かぬ背に
        たまゆら
 それよ玉搖
 
 わが目の前を
 
 脾腹光りて
 
 つと驅去りぬ
 

とほいななき
 遠嘶の
 
 ふた聲みこゑ
 
 まだ伸びきらぬ
 
 穗麥の末に
 
 われ見送りぬ
 
 四月の晨



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