伊東静雄「反響」
凝視と陶醉


    蜻蛉

 
 無邪氣なる道づれなりし犬の姿
 
 いづこに消えしと氣附ける時
         あれの
 われは荒野のほとりに立てり。
 

 
 其の野のうへに
 ときあかり
 時明してさ迷ひあるき
 
 日の光の求むるは何の花ぞ。
 

                         ゆづる
 この問ひに誰か答へむ。弓弦斷たれし空よ見よ。
 
 陽差の中に立ち來つつ
        しる  あきつ
 振舞ひ著し蜻蛉のむれ。
 

 
 今ははや悲しきほどに典雅なる
  あれの
 荒野をわれは横ぎりぬ。




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