伊東静雄「反響」
凝視と陶醉


    

  かど   と
 門の外の ひかりまぶしき 高きところに 在りて 一羽
 
 燕ぞ鳴く
 
 單調にして するどく 翳りなく
 
 あゝ いまにこの國に 到り着きし 最初の燕ぞ 鳴く
 
 汝 遠くモルッカの ニュウギニヤの なほ遙かなる
 
 彼方の空より 來りしもの
 つばさ
 翼さだまらず 小足ふるひ
 
 汝がしき鳴くを 仰ぎきけば
 
 あはれ あはれ いく夜凌げる 夜の闇と
 はね
 羽うちたたきし 繁き海波を 物語らず
 
 わが門の ひかりまぶしき 高きところに 在りて
 
 そはただ 單調に するどく 翳りなく
 
 あゝ いまにこの國に 到り着きし 最初の燕ぞ 鳴く




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