伊東静雄「反響」
凝視と陶醉


    金星

                        かどいし
 河原にちらばる しろい稜石をながめる人の 目のやうに
 
 陽のすべりおちた 夕べの空はいつまでも明るく わたしを眺め入る
 

                かはどこ
 そのあかるさの河床に 大川のあさい水は 無心に蜘蛛手にながれ
                                               みづか
 樹々はとり圍む垣に似てつらなり とほく退いて 自ら暗くなつた
 

 
 ひとり金星が 樹々の影繪のはるかうへに
 
 ゆらゆらと光ゆれながら わたしを時間のうちへと目覺めさす




BACK戻る 次にNEXT
[伊東静雄] [文車目次]