閑吟集 小歌

 
                         ほたるほたる  もの       しょうし
 我が恋は  水に燃えたつ蛍々  物言はで笑止の蛍
(59)

大意……

私の恋は、水辺で燃え立つ蛍のよう。
物も言えない哀れな蛍よ


 



 「笑止」というのは、現在ではあざ笑うとか、失笑や冷笑の意味で使いますが、もともとの意味は気の毒なとか、かわいそう、痛ましいことといった意味で使われました。「水に」には「見ずに」がかかります。「蛍」は「火垂」で「思い(火)」の縁語として使われます。

 多分、忍ぶ恋をしているのでしょう。恋しい人の顔を見ることも出来ず、好きとも言えず、ただじっと耐え忍んで思い続ける恋心の切なさ。なんてかわいそうな私……。そう言ってため息をついているのは、女でしょうか、それとも男でしょうか。

 でも、私が初めてこの歌を読んだ時、実は、粋で仇っぽい女の人を思い浮かべていたのでした。自分の柄とも思えない忍ぶ恋をしてしまった、そんな自分自身を仕様がないとひっそりと嗤っている、そんな人を。当然、歌の本意ではないのですが、そんな女性を思い浮かべて読んでみるのも、それなりに面白いものではないでしょうか。


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