北原白秋
 

「思ひ出」より

  
 みなし児




 
 あかい夕日のてる坂で
 
 われと泣くよならつぱぶし……

 
 あかい夕日のてるなかに
               あきうど
 ひとりあやつる商人のほそい指さき、舌のさき、
      つ         ふ
 糸に吊られて、譜につれて、
      ふる
 手足顫はせのぼりゆく紙の人形のひとをどり。

 
 あかい夕日のてる坂で
 
 やるせないぞえ、らつぱぶし。
 
 笛が泣くのか、あやつりか、なにかわかねど、ひとすじに
      つ         ね
 糸に吊られて、音につれて、
      ふる              おど
 手足顫はせのぼりゆく戯け人形のひとをどり。

 
 なにかわかねど、ひとすじに
        りんね
 見れば輪廻が泣いしやくる。
                みなしご       び
 たよるすべなき孤児のけふ日の寒さ、身のつらさ、
              み す        あきうど
 思ふ人には見棄てられ、商人の手にや弾かれて、
 
 糸に吊られて、譜につれて、
 
 手足顫はせのぼりゆく紙の人形のひとをどり。

 
 あかい夕日のてる坂で
 
 消えも入るよならつぱぶし……



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