梁塵秘抄 巻第二 四句神歌 雑

 
  きみ  あい   あやいがさ  お
 君が愛せし綾藺笠 落ちにけり落ちにけり
  か もがは  かはなか
 賀茂川に川中に
        もと    たづ                あ
 それを求むと尋ぬとせしほどに 明けにけり明けにけり
                 あき
 さらさらさやけの秋の夜は
 
(343)
 

大意……

あなたが大事になさっていた、藺草で編んだ美しい男笠が、落ちたわ、落ちたわ。
賀茂川の川の真ん中に。
それを捜そうと探し求めようするうちに、夜が明けたわ、明けたわ。
さらさらとすがすがしい秋の夜が。






 なんという事もない歌ですが、リズミカルで爽やかな感じがするのでとても好きな歌のひとつです。

 綾藺笠というのは、藺草を編んで作った男性用の笠で、武者達が狩や旅行の時に用いた笠です。

 多分、爽やかな若武者の愛用の笠が、はらり、と賀茂川に落ちてしまった。それを流れに沿って捜す内に爽やかな秋の夜が明けてしまった。

 笠を捜しているのは誰でしょう。若武者についていたお着きの人々でしょうか。それとも、若武者と愛し合った少女とが、ふたりっ切りで捜したのでしょうか。

 いずれにしても「さらさらさやけ」とたたみかける音がいかにも清々しい、美しい歌だと思います。



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