萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  悲しい月夜


 
ぬすつと犬めが、
 
くさつた波止場の月に吠えてゐる。
 
たましひが耳をすますと、
 
陰氣くさい聲をして、
 
黄いろい娘たちが合唱してゐる、
 
合唱してゐる。
 
波止場のくらい石垣で。

 
いつも、
 
なぜおれはこれなんだ、
 
犬よ、
 
白いふしあはせの犬よ。