萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  危險な散歩


 
春になつて、
                         ヽ ヽ
おれは新らしい靴のうらにごむをつけた、
 
どんな粗製の歩道をあるいても、
 
あのいやらしい音がしないやうに、
 
それにおれはどつさり壊れものをかかへこんでる、
 
それがなによりけんのんだ。
 
さあ、そろそろ歩きはじめた、
 
みんなそつとしてくれ、
 
そつとしてくれ、
 
おれは心配で心配でたまらない、
 
たとへどんなことがあつても、
 
おれの歪んだ足つきだけは見ないでおくれ。
 
おれはぜつたいぜつめいだ、
 
おれは病氣の風船のりみたいに、
 
いつも憔悴した方角で、
 
ふらふらふらふらあるいてゐるのだ。