萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  酒精中毒者の死


                      よ つ ぱ ら ひ
あふむきに死んでゐる酒精中毒者の、
 
まつしろい腹のへんから、
 
えたいのわからぬものが流れてゐる、
 
透明ない血漿と、
 
ゆがんだ多角形の心臓と、
 
腐つたはらわたと、
 ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
らうまちすの爛れた手くびと、
 
ぐにやぐにやした臓物と、
 
そこらいちめん、
 
地べたはぴかぴか光つてゐる、
 
草はするどくとがつてゐる、
         ヽ ヽ ヽ ヽ
すべてがらぢうむのやうに光つてゐる。

 
こんなさびしい風景の中にうきあがつて、
 
白つぽけた殺人者の顔が、
 
草のやうにびらびら笑つてゐる。