萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  干からびた犯罪


 
どこから犯人は逃走した?
 
ああ、いく年もいく年もまへから、
 
ここに倒れた椅子がある、
 
ここに兇器がある、
 
ここに屍體がある、
 
ここに血がある、
 
さうしてざめた五月の高窓にも、
 
おもひにしづんだ探偵のくらい顔と、
 
さびしい女の髪の毛とがふるへて居る。