萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  ありあけ


 
ながい疾患のいたみから、
 
その顔はくもの巣だらけとなり、
 
腰からしたは影のやうに消えてしまひ、
 
腰からうへには藪が生え、
 
手が腐れ
 からだ
身體いちめんがじつにめちやくちやなり、
 
ああ、けふも月が出で、
 
有明の月が空に出で、
 
そのぼんぼりのやうなうすらあかりで、
 
畸形の白犬が吠えてゐる。
 
しののめちかく、
 
さみしい道路の方で吠える犬だよ。