萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  


 
まつくろけの猫が二疋、
 
なやましいよるの家根のうへで、
 
ぴんとたてた尻尾のさきから、
           ヽ ヽ ヽ ヽ
絲のやうなみかづきがかすんでゐる。
 
『おわあ、こんばんは』
 
『おわあ、こんばんは』
 
『おぎやあ、おぎやあ、おぎやあ』
 
『おわああ、ここの家の主人は病氣です』