萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  愛憐


 
きつと可愛いかたい齒で、
 
草のみどりをかみしめる女よ、
 
女よ、
                 ヽ ヽ ヽ
このうすい草のいんきで、
 
まんべんなくお前の顔をいろどつて、
 
おまへの情慾をたかぶらしめ、
 
しげる草むらでこつそりあそぼう、
 
みたまへ、
 
ここにはつりがね草がくびをふり、
           ヽ ヽ ヽ ヽ
あそこではりんだうの手がしなしなと動いてゐる、
 
ああわたしはしつかりとお前の乳房を抱きしめる、
 
お前はお前で力いつぱいに私のからだを押へつける、
 
さうしてこの人氣のない野原の中で、
 
わたしたちは蛇のやうなあそびをしよう、
 
ああ私は私できりきりとお前を可愛がつてやり、
 
おまへの美しい皮膚の上に、い草の葉の汁をぬりつけてやる。