萩原朔太郎
『月に吠える』より

  
  肖像


 
あいつはいつも歪んだ顔をして、
 
窓のそばに突つ立つてゐる、
 
白いさくらが咲く頃になると、
 
あいつはまた地面の底から、
 
むぐらもちのやうに這ひ出してくる、
 
ぢつと足音をぬすみながら、
 
あいつが窓にしのびこんだところで、
 
おれは早取寫眞にうつした。
 
ぼんやりした光線のかげで、
 
白つぽけた乾板をすかして見たら、
 
なにかの影のやうに薄く寫つてゐた。
 
おれのくびから上だけが、
 
おいらん草のやうにふるへてゐた。