石川啄木

詩六章

  
  一 路傍の草花に

 
 何といふ名か知らないが、
      くき  あわつぶ
 細い茎に粟粒のやうな花をもつた
 
 黄いろい草花よ、
  ろぼう
 路傍の草花よ。
 
 ――何だか見覚えがある。

           あきかぜ
 銀のやうな秋風が吹いて、
 
 黄いろな花が散つてゐる。

 
 あゝ、さうだつけ。――
 
 中学校の片隅の
      くろかべ  としょ ぐら
 あの黒壁の図書庫の蔭に隠れて、
            わたし
 憎まれ者の私が、
         ほお
 濡らした頼もぬぐはずに
 
 ぢつと見たのもお前だつたが――

 
 長い/\前のことだ。
     めつかち   い じ わる
 あの眇目の意地悪は、
      ぐつ   は
 破れ靴を穿いた級長は、
                      か      はず       なが
 しよつちゆう眼鏡を懸けたり脱したりし乍ら、
    わたし  けんか    あおじろ
 よく私と喧嘩した蒼白い英語教師は、
           ど
 今はみな何うなつてゐるやら。

           あきかぜ
 銀のやうな秋風が吹いて、
 あわつぶ
 粟粒のやうな黄いろい花が
 
 ほろ/\と散つてゐる。




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