立原道造「優しき歌 I


 
 鳥啼くときに
 

    式子内親王《ほととぎすそのかみやまの》によるNachdichtung



 
 
ある日 小鳥をきいたとき
 
私の胸は ときめいた
             しじま
耳をひたした沈黙のなかに
 
なんと優しい笑ひ声だ!

 
にほいのままの 花のいろ
 
飛び行く雲の ながれかた
 
指さし 目で追ひ――心なく
               やす
草のあひだに 憩んでゐた

 
思いきりうつとりとして 羽虫の
 
うなりに耳傾けた 小さい弓を描いて
 
その歌もやつぱりあの空に消えて行く

 
消えて行く 雲 消えて行く おそれ
 
若さの扉はひらいてゐた 青い青い
 
空のいろ 日にかがやいた!