薊の花のすきな子に
V 民 謡
――エリザのために
いと
絃は張られてゐるが もう
誰もがそれから調べを引き出さない
指が触れると 老いたかなしみが
うつは
しづかに帰つて来た……小さな歌の器
ある日 甘い歌がやどつたその思ひ出に
人はときをりこれを手にとりあげる
弓が誘ふかろい響――それは奏でた
(おお ながいとほいながれるとき)
――昔むかし野ばらが咲いてゐた
野鳩が啼いてゐた……あの頃……
さうしてその歌が人の心にやすむと
時あつて やさしい調べが眼をさます
指を組みあはす 古びた唄のなかに
――水車よ 小川よ おまへは美しかつた
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