立原道造「優しき歌
I
」
ひとり林に‥‥
I ひとり林に‥‥
だれも 見てゐないのに
咲いてゐる 花と花
だれも きいてゐないのに
啼いてゐる 鳥と鳥
通りおくれた雲が 梢の
空たかく ながされて行く
青い青いあそこには 風が
さやさや すぎるのだらう
草の葉には 草の葉のかげ
うごかないそれの ふかみには
てんたうむしが ねむつてゐる
しじま
うたふやうな沈黙に ひたり
私の胸は 溢れる泉! かたく
脈打つひびきが時を すすめる
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