ひとり林に‥‥
II 真冬のかたみに‥‥
Heinrich Vogeler gewidmet
追ひもせずに 追はれもせずに 枯木のかげに
立つて 見つめてゐる まつ白い雲の
おもてに ながされた 私の影を――
(かなしく 青い形は 見えて来る)
私はきいてゐる さう! たしかに
私は きいてゐる その影の うたつてゐるのを……
それは涙ぐんだ鼻声に かへらない
昔の過ぎた夏花のしらべを うたふ
はおじろ ひわ もみ
《あれは頬白 あれは鶸 あれは 樅の樹 あれは
私……私は鶸 私は 樅の樹……》 こたへもなしに
私と影とは 眺めあふ いつかもそれはさうだつたやうに
影は きいてゐる 私の心に うたふのを
ひつすぢの 古い小川のさやぎのやうに
なみだ
溢れる泪の うたふのを……雪のおもてに――
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