立原道造「優しき歌 II


 
 IX 樹木の影に


 
日々のなかでは
 
あはれに 目立たなかつた
 
あの言葉 いま それは
 
大きくなつた!

 
おまへの裡に
 
僕のなかに 育つたのだ
 
……外に光が充ち溢れてゐるが
 
それにもまして かがやいてゐる

               いこ
いま 僕たちは憩ふ
 
ふたりして持つ この深い耳に
 
意味ふかく 風はささやいて過ぎる

 
泉の上に ちひさい波らは
 
ふるへてやまない……僕たちの
 
手にとらへられた 光のために