立原道造「優しき歌
II
」
VIII 午後に
さびしい足拍子を踏んで
や ぎ
山羊は しづかに 草を 食べてゐる
あの緑の食物は 私らのそれにまして
どんなにか 美しい食事だらう!
私の飢ゑは しかし あれに
たどりつくことは出来ない
私の心は もつとさびしく ふるへてゐる
私のおかした あやまちと いつはりのために
おだやかな獣の瞳に うつつた
空の色を 見るがいい!
〈私には 何が ある?
〈私には 何が ある?
ああ さびしい足拍子を踏んで
山羊は しづかに 草を 食べてゐる
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