中原中也「在りし日の歌」


    
   


         めうが
今宵月は茗荷を食ひ過ぎてゐる
さいせいば                    び は
済製場の屋根にブラ下つた琵琶は鳴るとしも想へぬ
                      おぢ
石炭の匂ひがしたつて怖けるには及ばぬ
                   と
灌木がその個性を砥いでゐる
                      べんがらいろ
姉妹は眠つた、母親は紅殻色の格子を締めた!

 
さてベランダの上にだが
 
見れば銅貨が落ちてゐる、いやメダルなのかア
 
これは今日昼落とした文子さんのだ
 
明日はこれを届けてやらう
 
ポケットに入れたが気にかゝる、月は茗荷を食ひ過ぎてゐる
                   と
灌木がその個性を砥いでゐる
 
姉妹は眠つた、母親は紅殻色の格子を締めた!