中原中也「在りし日の歌」


   
  六月の雨


 
またひとしきり 午前の雨が
しやうぶ
菖蒲のいろの みどりいろ
まなこ               ひと
眼うるめる 面長き女
 
たちあらはれて 消えてゆく

 
たちあらはれて 消えゆけば
 
うれひに沈み しとしとと
はたけ
畠の上に 落ちてゐる
 
はてしもしれず 落ちてゐる

              たいこ
       お太鼓叩いて 笛吹いて
 
       あどけない子が 日曜日
 
       畳の上で 遊びます

 
       お太鼓叩いて 笛吹いて
 
       遊んでゐれば 雨が降る
           れんじ
       櫺子の外に 雨が降る