中原中也「在りし日の歌」
雨の日
通りに雨は降りしきり、
家々の腰板古い。
まなこ しと
もろもろの愚弄の眼は淑やかとなり、
くわべん
わたくしは、花瓣の夢をみながら目を覚ます。
*
とびいろ さや
鳶色の古刀の鞘よ、
舌あまりの幼な友達、
おまへの額は四角張つてた。
わたしはおまへを思ひ出す。
*
やすり
鑢の音よ、だみ声よ、
老い疲れたる胃袋よ、
雨の中にはとほく聞け、
やさしいやさしい唇を。
*
せうしん
煉瓦の色の憔心の
かく
見え匿れする雨の空。
さかし
賢い少女の黒髪と、
かうべ
慈父の首と懐かしい……
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