中原中也「在りし日の歌」


   
  冷たい夜


 
 冬の夜に
 
 私の心が悲しんでゐる
 
 悲しんでゐる、わけもなく……
 
 心は錆びて、紫色をしてゐる。
 

 
 丈夫な扉の向ふに、
 
 古い日は放心してゐる。
 
 丘の上では
           は じ
 棉の実が罅裂ける。
 

  こ こ         くすぶ
 此処では薪が燻つてゐる、
 
 その煙は、自分自らを
 
 知つてでもゐるやうにのぼる。
 

 
 誘はれるでもなく
  もと
 覓めるでもなく、
 
 私の心が燻る……