中原中也「在りし日の歌」


   
  冬の明け方


 
 残んの雪が瓦に少なく固く
                          ねむ
 枯木の小枝が鹿のやうに睡い、
 
 冬の朝の六時
 
 私の頭も睡い。
 

 
 烏が啼いて通る――
 
 庭の地面も鹿のやうに睡い。
 
 ――林が逃げた農家が逃げた、
 
 空は悲しい衰弱。
 
      私の心は悲しい……
 

 
 やがて薄日が射し
         あ
 青空が開く。
                            ひづつ
 上の上の空でジュピター神の砲が鳴る。
       よ も
 ――四方の山が沈み、
 

              あくび
 農家の庭が欠伸をし、
 
 道は空へと挨拶する。
 
      私の心は悲しい……