中原中也「在りし日の歌」
老いたる者をして
――「空しき秋」第十二
せいひつ うち
老いたる者をして静謐の裡にあらしめよ
そは彼等こころゆくまで悔いんためなり
吾は悔いんことを欲す
まこと
こころゆくまで悔ゆるは洵に魂を休むればなり
な
あゝ はてしもなく涕かんことこそ望ましけれ
はらから
父も母も兄弟も友も、はた見知らざる人々をも忘れて
しののめ
東明の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ
はたなびく小旗の如く涕かんかな
ある
或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
へ
海の上の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……
反歌
けふだ
あゝ 吾等怯懦のために長き間、いとも長き間
あだ
徒なることにかゝらひて、涕くことを忘れゐたりしよ、げに忘れゐたりしよ……
〔空しき秋二十数篇は散佚して今はなし。その第十二のみ、
諸井三郎の作曲によりて残りしものなり。〕
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