中原中也「在りし日の歌」


   
  村の時計


 
 村の大きな時計は、
 
 ひねもす動いてゐた
 

 
 その字板のペンキは
     つや
 もう艶が消えてゐた
 

 
 近寄つてみると、
 
 小さなひびが沢山にあるのだつた
 

 
 それで夕陽が当つてさへが、
 
 おとなしい色をしてゐた
 

 
 時を打つ前には、
 
 ぜいぜいと鳴つた
 

 
 字板が鳴るのか中の機械が鳴るのか
 
 僕にも誰にも分らなかつた