中原中也「山羊の歌」


    
   臨 終


        にび
 秋空は鈍色にして
 
 黒馬の瞳のひかり
        か
   水涸れて落つる百合花
 
   あゝ こころうつろなるかな
 

 
 神もなくしるべもなくて
       をみな
 窓近く婦の逝きぬ
           めし
   白き空盲ひてありて
 
   白き風冷たくありぬ
 

 
 窓際に髪を洗へば
 
 その腕の優しくありぬ
              こぼ
   朝の日は澪れてありぬ
 
   水の音したたりてゐぬ
 

 
 町々はさやぎてありぬ
 
 子等の声もつれてありぬ
 
   しかはあれ この魂はいかにとなるか?
 
   うすらぎて 空となるか?