中原中也「山羊の歌」


    
   秋の一日


 
こんな朝、遅く目覚める人達は
              わだち
戸にあたる風と轍との音によつて、
 
サイレンの棲む海に溺れる。 

 
夏の夜の露店の会話と、
 
建築家の良心はもうない。
 
あらゆるものは古代歴史と
 
花崗岩のかなたの地平の目の色。

 
今朝はすべてが領事館旗のもとに従順で、
    しやく
私は錫と広場と天鼓のほかのなんにも知らない。
 
軟体動物のしやがれ声にも気をとめないで、
    しやが
紫の蹲んだ影して公園で、乳児は口に砂を入れる。

 
         (水色のプラットホームと
             はしや       あわざら
         躁ぐ少女と嘲笑ふヤンキイは
 
         いやだ いやだ!)

 
ぽけつとに手を突込んで
 
路次を抜け、波止場に出でて
 
今日の日の魂に合ふ
 き れくず
布切屑をでも探して来よう。