中原中也「山羊の歌」


    
   寒い夜の自画像


 
きらびやかでもないけれど
 
この一本の手綱をはなさず
 
この陰暗の地域を過ぎる!
 
その志明らかなれば
 
冬の夜を我は嘆かず
       せうさう      かな
人々の憔懆のみの愁しみや
 
憧れに引廻される女等の鼻唄を
 
わが瑣細なる罰と感じ
 
そが、わが皮膚を刺すにまかす。
よ ろ
蹌踉めくままに静もりを保ち、
いささ
聊かは儀文めいた心地をもつて
                いさ
われはわが怠惰を諌める
 
寒月の下を往きながら。

                    しか
陽気で、坦々として、而も己を売らないことをと、
 
わが魂の願ふことであつた!