中原中也「山羊の歌」


    
   木 陰


 
神社の鳥居が光をうけて
にれ
楡の葉が小さく揺すれる
 
夏の昼の青々した木陰は
           なだ
私の後悔を宥めてくれる

 
暗い後悔 いつでも附纏ふ後悔
 
馬鹿々々しい破笑にみちた私の過去は
               くわいめい
やがて涙つぽい晦暝となり
 
やがて根強い疲労となつた

 
かくて今では朝から夜まで
 
忍従することのほかに生活を持たない
 
怨みもなく喪心したやうに
                 まなこ
空を見上げる私の眼――

 
神社の鳥居が光をうけて
 
楡の葉が小さく揺すれる
 
夏の昼の青々した木蔭は
 
私の後悔を宥めてくれる