中原中也「山羊の歌」


    
   失せし希望


 
暗き空へと消え行きぬ
 
  わが若き日を燃えし希望は。

 
夏の夜の星の如くは今もなほ
   とほ
  遐きみ空に見え隠る、今もなほ。

 
暗き空へと消えゆきぬ
 
  わが若き日の夢は希望は。

       こ こ
今はた此処に打伏して
 
  獣の如くは、暗き思ひす。

 
そが暗き思ひいつの日
 
  晴れんとの知るよしなくて、

         よる
溺れたる夜の海より
 
  空の月、望むが如し。

 
その浪はあまりに深く
 
  その月はあまりに清く、

 
あはれわが若き日を燃えし希望の
 
  今ははや暗き空へと消え行きぬ。