中原中也「山羊の歌」


    
   つみびとの歌
   
  阿部六郎に



 
わが生は、下手な植木師らに
        はや
あまりに夙く、手を入れられた悲しさよ!
 
由来わが血の大方は
                      たぎ
頭にのぼり、煮え返り、滾り泡だつ。

 
おちつきがなく、あせり心地に、
             もと
つねに外界に索めんとする。
 
その行ひは愚かで、
 
その考えは分ち難い。

 
かくてこのあはれなる木は、
 
粗硬な樹皮を、空と風とに、
 
心はたえず、追惜のおもひに沈み、

 らんだ
懶懦にして、とぎれとぎれの仕草をもち、
                      へつら
人にむかつては心弱く、諂ひがちに、かくて
                              し で か
われにもない、愚事のかぎりを仕出来してしまふ。