中原中也「山羊の歌」


    
   雪の宵


 
    青いソフトに降る雪は
                 ささや
    過ぎしその手か囁きか  白秋

 

 
ホテルの屋根に降る雪は
 
過ぎしその手か、囁きか

                 けむ
  ふかふか煙突煙吐いて、
                 は
  赤い火の粉も刎ね上る。

 
今夜み空はまつ暗で、
 
暗い空から降る雪は……

 
  ほんにわかれたあのをんな
 
  いまごろどうしてゐるのやら。

 
ほんに別れたあのをんな、
 
いまに帰つてくるのやら

   しづ
  徐かに私は酒のんで
 
  悔と悔とに身もそぞろ。

 
しづかにしづかに酒のんで
 
いとしおもひにそそらるる……

 
  ホテルの屋根に降る雪は
 
  過ぎしその手か、囁きか

 
ふかふか煙突煙吐いて
 
赤い火の粉も刎ね上る。